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『夏服パースペクティヴ』/長沢樹 [角川]

あらすじ

廃部寸前の都筑台高校映研の部長・遊佐渉は、映像制作に秀でた後輩の樋口真由とともに、夏休みを利用して行われる映像制作合宿に参加するが……現実と虚構の狭間で繰り広げられる惨劇に、若き探偵が挑む!(角川書店ウェブページより)

夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)

夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/11/01
  • メディア: 単行本

 

感想は追記にて

感想

デビュー作『消失グラデーション』で鮮やかな驚きの物語を見せ、第31回横溝正史ミステリ大賞を受賞した長沢樹さん。彼の次回作はどうなるのか、と楽しみにしていました。そこで登場したのが、『消失グラデーション』の主人公であった樋口真由を主人公に据えた、「樋口真由”消失”シリーズ」と銘打たれて登場しました。個人的には、『消失グラデーション』でジョーカー的な役割を負った彼を主人公にしたシリーズになるのではないか、と思っていたので、この展開は少し驚きました。ただ、『消失グラデーション』に少し登場していたに過ぎない彼の物語を綴るよりも、物語の主人公であった彼女を続投させる、と言うのは至極当然の決断ですね。もう一度樋口真由の物語を読むことができて、楽しかったです。

さて、『消失グラデーション』の素晴らしさと言えば、北村薫氏の言葉を借りれば「誤りなく組み上げられた建築」で生まれた、鮮やかすぎる驚きだと言うのは、異論がないところでしょう。その素晴らしさ故に作者のデビュー作の評価を高めたのですが、反面「あの『消失グラデーション』の作者の作品」に同じような驚きを求められてしまうプレッシャーも生じると思います。実際、私もそれを楽しみに読んでいましたし、読書メーターの感想を数人流し見した感じでは、そこに言及した感想が散見されました。

さて、その期待に『夏服パースペクティヴ』が応えられていたか、というと、残念ながら「否」だと思います。確かに驚きの要素は用意されていましたし、そこにいたるまでの構築は誤りなく組み上げられていました。どのような驚きが隠されているかに読者は目を光らせているだろうことを予想すれば、この驚きを見抜ける読者は多いのではないかと思います。しかし、それでも非常に巧みに組み上げられていると感じました。

しかし、この要素にどうして前作ほどのインパクトを感じなかったか。もちろんそこには前作のインパクトが強すぎた、と言うことが上げられるでしょう。しかし、私としては純粋に「物語としての面白さが上昇したから」と感じました。

プロローグは少女たちの監禁と洋弓による虐待事件と、その犯人の自殺。物語の後半は、嵐で周囲から隔絶された山の中の旧学校施設の撮影場で起こった殺人事件の解決。ラストに関しても、決してスッキリという分けではありません。しかし、物語の大部分に当たる中盤は、大変素晴らしい青春物語として機能していたように思います。

女子高生ユニット「HAL Project」のPV撮影に、OGであり若手映像作家の真壁梓がドキュメント撮影という名目で参加するという設定。そこにセミドキュメントという要素として真壁梓が一波乱を持ち込んでいくのですが、そこでは登場人物である高校生の生が、生き生きと感じられました。それぞれの思惑がありつつ進むPV撮影と、そこに波乱を持ち込みドキュメントを盛り上げようとする真壁梓。その真壁梓の企みに探偵役として挑む樋口真由ですが、個人的には最後の事件がなくとも物語として成立していたように思います。

これを読んでいて思いだしたのが『サクリファイス』でした。『サクリファイス』の展開は途中までツール・ド・フランスを目指す日本人選手の物語であり、後半はミステリでした。これが前半は高校生の青春ものであり、後半がミステリとなった本作の展開が重なって見えたからです。ただ、大きな違いがあるとすれば、『サクリファイス』は唐突にミステリ要素が出てきたのに対して、『夏服パースペクティヴ』は(物語中にミステリ要素が仕組まれていたからもあるのですが)唐突なミステリとは感じなかったことでしょう。

読み始めは『消失グラデーション』を彷彿とさせる驚き、期待と不安を感じていた次第ですが。読み終わってみると、「前作の驚きを越えられないのではないか」という不安は的中していたものの、それ以外の物語の部分が読み応えがあり、結果として十分な満足を得られました。個人的なことを言うと、『消失グラデーション』はあまりに鮮やかすぎる驚きによって物語部分の印象が薄く、今振り返ると途中部分をあまり覚えていません。しかし、この『夏服パースペクティヴ』ならば、物語部分を強く覚えているだろう、という予感があります。

この作品は、今後作者が小説家としてあり続ける道筋であるように思います。『消失グラデーション』は作者のデビュー作であり、今後作者の代表作になるであろうことは疑いようのないことであると思います。しかし、あの鮮やかさを今後も維持していく、ということは不可能と言っていいでしょう。ではどこで読者を惹き付けるか。それは、物語としての面白さであり、そこに驚きをプラスしていくという方向性であり、それを実践したのがこの作品であるのでしょう。ますます作者の今後が楽しみになる一作だったと思います。


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太郎


はじめまして。長沢樹の実兄の太郎と申します。
愚弟の小説の解説、恐縮です。
彼も20年書き続け,ようやくデビューを果たし、私としても嬉しい限りです。
私も細々とブログをやっています。
もしよろしければ,相互リンクさせて頂ければ幸いです。
「いい天気だし,本でも読もうか」でお待ちしています。

*メッセージから送れなかったのでここから送信させて頂きます。承認して頂かなくても差し支えありません。
by 太郎 (2013-03-12 19:55) 

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